2026/09/09 17:01

9月初旬、長野県青木村にある花農家「フラワーファーム沓掛」さんを訪ねました。
ご一緒したのは、フラワーライフ振興協議会のアンバサダーであるflowerNAOKIさん。
会社勤めをしながら、週末には花屋としての活動や「花活」に取り組んでいらっしゃいます。
フラワーファーム沓掛さんでは、花束やアレンジメントに自然な表情を添え、主役の花を引き立てる「素材花材」を中心に、多種多様な草花を育てておられます。
主役となるお花として、ダリアも栽培されています。
小さな花をつける草花や、葉の色、茎の動きを楽しむ花材。
そして、一輪ずつ異なる表情を見せる、彩り豊かなダリア。
その植物たちを前に、栽培のことから花のルーツ、流通、これからの花業界まで、たくさんのお話を伺いました。
◆頭の中には、植物図鑑
沓掛さんのお話で驚くのは、植物についての知識の深さです。
その花は、もともとどこの土地で育っていたのか。
そこは暑い場所なのか、涼しい場所なのか。
雨は多いのか、少ないのか。
なぜ、その形や咲き方になったのか。
ひとつのお花から、次々と話が広がります。
まるで、頭の中に植物図鑑が入っているよう。
植物の名前や特徴だけでなく、ルーツまでさかのぼれる図鑑です。
写真は沓掛さんが若手時代から何度も読みこんだ図鑑。全6巻あるそう。
こちらが沓掛さんの頭の中に入っています。
私たちはお花を見ると、まず色や形に目が向きます。
でも、沓掛さんは、その姿の背景にある「どのような環境で生きてきた植物なのか」というところまで、深く掘り下げておられます。
そして、その知識を、実際の栽培に生かしていらっしゃいます。
どこに植えるのか。
どの季節に育てるのか。
その植物にとって、何が負担になるのか。
植物を知り、実際に育つ様子を観察する。
その積み重ねが、草花づくりを支えているのだと感じました。


◆その土地に合う花を育てるということ
今回の訪問で、特に印象に残ったのが、「その土地の気候に合う植物を選んで育てる」という考え方。
実際に見せていただいた畑では、空の下で草花たちが育っていました。

花の栽培と聞くと、ハウスの中で温度を管理しながら育てる様子を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。
けれど、その土地の気温や雨、季節の変化に合った植物なら、ハウスで温度を調整しなくても育てられるものがあります。
ハウスでの栽培は、品質や出荷時期を整えるための大切な方法です。
一方で、温度管理に使う電気や燃料は、生産者さんの経済的な負担となり、そのエネルギー消費は環境への負荷にもつながります。
植物が本来持っている性質と、その土地の環境が合っていれば、温度管理に必要なエネルギーを抑えられる可能性があります。
生産者さんの負担を減らし、環境への負荷も小さくする。
その土地に合う花を育てることは、お花づくりを続けていくうえでも、大切な視点だと感じました。
もちろん、露地での栽培にも、雨や風などに直接向き合う難しさがあります。
また、長野に合う植物が、ほかの地域でも同じように育つとは限りません。
だからこそ、その植物がどこで生まれ、どのような環境で育ってきたのかを知ることが、その土地での育て方につながるのです。

◆「夏に花がない」を、花の選び方から考える
暑い季節に、どんなお花を育て、届けていくか。
こちらも、お話を伺いながら考えたことのひとつです。
いつも使う花、よく知られている花だけで考えると、夏に選べるお花が少なくなってしまうことがあります。
でも、その地域の夏に合った草花まで目を向けると、どうでしょうか。
暑い季節に花を咲かせるもの。
葉の色や形が美しいもの。
穂や枝の姿を楽しめるもの。
私たちがまだ十分に知らない花材にも、選択肢が広がります。

その土地の夏に合う植物を育て、その魅力を知ってもらう。
そうすることで、夏の花材不足や、栽培にかかるエネルギーの負担という課題の解決にも、近づけるのではないでしょうか。
そのためには、販売する私たちの仕事も大切です。
「この草花は、こんなふうに飾ると素敵です」
「葉や茎の動きも楽しめます♪」
そんなふうに、飾る場面まで想像できるように、植物の魅力を伝えること。
それが、私たち販売する側の役割です。
「飾ってみたい」「楽しみたい」と思ってくださる方が増えることが、生産者さんの次のお花づくりを支える力にもつながっていくのだと思います。

◆華やかなダリアも、素朴な草花も
花びらを幾重にも重ねたダリア。
小さな花が点々と咲く草花。
明るい緑や深い色合いの葉。
それぞれに違う美しさがあります。

素材花材は、花束の中では「脇役」と呼ばれることもあります。
でも、花と花の間に空間をつくったり、自然な動きを添えたりと、全体の表情を変えてくれる存在です。
そして、その草花だけを数本、花瓶に挿しても素敵です。
細い茎の先に咲く小さな花を眺める。
少し曲がった枝の向きを考えながら飾る。
葉の色の違いを楽しむ。
華やかさに加えて、そんな楽しみ方もあります。
お花を飾ることは、いつも豪華な花束を用意することばかりではありません。
素朴な一輪が、暮らしの中に季節を運んでくれることもあります。
こうした美しさがもっと伝われば、育てる花も、選ばれる花も、幅が広がっていくはずです。

◆規格外のお花にも、それぞれの美しさがある
左が正規品、右が規格外のダリアです。

左のダリアは、赤い花びらに均等に白が入り、模様がきれいにそろっています。
右のダリアは、赤と白の入り方がランダムです。白がワンポイントではいっているものも。
私たちには、その不ぞろいな色の入り方も、その一輪だけの個性と見えて、とても魅力的に感じられました。
同じものが無い、唯一無二のユニークさです。
流通の中では、使う方が求める品質のお花を届けるために、花の色や形、茎の長さなどの出荷基準が設けられています。
でも、その基準に合わないお花にも、楽しめる魅力がちゃんとあります。
一輪ずつ違う表情を眺めたり、花の向きや組み合わせを工夫したり。
違いがあるからこその楽しみ方。
大切なのは、規格に合わない理由と、その一輪ならではの魅力を伝え、楽しんでくださる方につなぐことだと考えています。

◆業界を変えたい。若い人たちへの期待
沓掛さんからは、花業界を変えていきたいという、とても熱い想いも伺いました。
花が店頭に並ぶまでには、育てる人の知識や経験、日々の手間があります。
けれど、その背景は、花の見た目だけでは伝わりません。
どんな性質を持つ植物なのか。
どんな工夫をして育てられたのか。
その花材を使うことで、どんな表現ができるのか。
そうした価値が伝わることは、生産者さんの仕事が理解され、育て続けられることにもつながります。
そして、沓掛さんが期待を寄せていらっしゃったのが、若い人たちの力です。

まだ広く知られていない草花に美しさを見つける感性。
その魅力を、花束やアレンジメントで表現する力。
SNSなどを通じて、自分の言葉や写真で伝える行動力。
生産者が積み重ねてきた知識と、若い世代の発想がつながることで、花の選ばれ方や届け方も変わっていくのではないでしょうか。
◆フラワーロスが生まれない未来へ
フラワーロスを減らすために、行き先のないお花を必要な方へつなぐこと。
それは、スマフラが大切にしている活動です。
そして、その先に目指しているのは、そもそもフラワーロスが生まれないこと。
大切に育てられたお花が、行き先を失うことなく、楽しんでくださる方へ届く。

そんな未来に近づくために、ロスが生まれる背景にも目を向け、生産者さんとともに考えていきたいと思っています。
その土地に合う花を育てること。
まだ知られていない草花の魅力を伝えること。
育てる段階から、使う人や飾る人とつながっていくこと。
ひとつの取り組みですべてが解決するわけではありませんが、花の価値を知り、楽しみ方を広げることも、その一歩になると思います。
今回、沓掛さんのお話を伺い、私たち自身も、お花を見る視野が広がりました。
目の前の一輪には、植物が生きてきた背景と、それを理解し、育ててきた人の時間があります。
そのことを、花のかわいらしさや美しさと一緒にお届けしていきたいと思います。
フラワーファーム沓掛さん、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。

